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「敗者」から読み解く歴史に多くの教訓

敗者烈伝 伊東 潤 著

敗者烈伝の写真実業之日本社 1600円(税別)

戦国時代を描いたドラマなどでは必ず登場する織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の3人。だれか一人を主人公にして描けば、その暗い側面はオブラートに包まれて描かれることが多い。特に秀吉の後半生は酷いと思う。実子が生まれると、邪魔になった甥の関白・秀次を自害に追い込み、その妻子ら39人を処刑した。小田原の北条氏を滅ぼして天下を統一。やっと平和な時代が訪れるかと思いきや、血に飢えたように朝鮮半島を侵略し、豊臣政権が揺らぐきっかけを自ら作ってしまった。自身の年齢を考えれば、徳川家康の力を削ぐことに全力を傾けなければならなかった。死ぬ間際、息子秀頼のことをライバルの家康に託すが、家康がそんなに甘くないことは少し考えればわかったはず。家康は二度の大坂攻めで豊臣家を滅亡に追い込んだ。秀吉次第では、豊臣政権はもっと永く続いたかもしれない。

いずれにしても、この3人は「勝者」として描かれることが多い(この本では信長は「敗者」として書かれている)。

勝者側から描いた物語は、その勝利が必然のように描かれることが多い。でも、そこには運や偶然もあっただろう。

特に幕末は、後に新政府になる側(薩摩、長州、土佐、肥前藩など)と幕府側(会津藩、新選組など)双方が、新しい日本の未来を思い描いて戦った。歴史は勝者側から描かれることが多く、敗者には先見の明がなかったかのように思われがちだが、実情はそんなに単純明快ではなかっただろう。

歴史を知れば知るほど「敗者の言い分」を聞いてみたくなるものだ。

そんな時に目にしたのが、今回紹介する「敗者烈伝」だ。

取り上げている「敗者」は以下の通り。

第一章 古代・平安・源平

蘇我入鹿、平将門、藤原頼長、平清盛、源義経

第二章 南北朝・室町

高師直、足利直義、太田道灌、足利義政

第三章 戦国・江戸

今川義元、武田勝頼、織田信長、明智光秀、北条氏政、豊臣秀次、石田三成、豊臣秀頼、天草四郎

第四章 幕末・明治

松平容保、徳川慶喜、大鳥圭介、榎本武揚、江藤新平、西郷隆盛、桐野利秋

各章に「勝者烈伝」として、源頼朝、足利尊氏、徳川家康、大久保利通についてのコラムが添えられている。

「敗者の選考基準」は、「それぞれの時代の節目となる戦いに敗れた者を優先」。「いわゆる大物敗者」で、「現代を生きるわれわれの教訓となるであろう敗者」、「さらに、読み物として面白い敗者かどうかを吟味した」という。

成功が重なると人は自己肥大し、傲慢になる。何事も人のせいにせず、自責で考えることが大切といった教訓はためになった。