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「20代の思春期」28歳女性の悩み

小さいおじさん 尾﨑 英子 著

小さいおじさんの写真文藝春秋刊 1600 円(税別)

 このお話には、中学の同窓会で再会した3人の28歳の女性が登場する。

 大手ハウスメーカーの設計士として働いている曜子。曜子は、最近母が毎晩のように酒を飲んでいるという噂を聞かされ不安になる。母とは気が合わず、その関係に苦悩してきた。無愛想で、あまり友達もいない自分の性格の原因も母にあるのではないかと思っている。子どもというのは親に対して他人よりも厳しくなりがちである。

 子どもの頃から地味な存在だと周囲から見られていた紀子。できちゃった婚をして3歳の娘の育児に明け暮れる毎日だが、ママ友ができず、内心孤独感を募らせていた。

 出版社を辞め実家で休職中の朋美。会社を辞めるきっかけにもなったある秘密をかかえ、就職活動にも身が入らず、鬱々とした日々を送っていった。

 中学2年のそのクラスは、大きないじめのようなこともなく、いたって平和だった。それでも、女の子たちにはいくつかのグループがあり、曜子と朋美は同じグループにいたが、曜子は朋美のことがあまり好きではなかった。曜子はクラスで一番勉強ができ、美形だが少し近寄り難い感じ。対して朋美はふわふわした感じの性格美人で、男の子にももてていた。地味な子たちのグループにいた紀子は密かに朋美に憧れていた。

 14年がたった今も、3人は当時の人間関係を引きずっているところがある。

 3人の女性がそれぞれの悩みにどう向き合っていくのか。これがこの物語の中心となるところだ。

 その3人を見えない「縁」という糸で結んでいるのが、彼女たちが育った町の音無(おとない)神社という小さな神社にいると噂されている「小さいおじさん」。人差し指サイズの小人で、白いランニングに白い股引(ももひき)という休日のおじさんスタイルをしているという。

 この作品は第15回ボイルドエッグズ新人賞受賞作で、著者のデビュー作だという。28歳の女性の心の動きを丹念に描いた筆致には共感できるし、安心して読めた。出版社のホームページの自著について書いた文章の中で、28歳という歳を「20代の思春期」と表現していて、うまいなぁと思う。男性である私も28歳の頃はいろいろと悩んだ覚えがあるが、特に女性の場合は仕事、結婚、出産と様々な選択を迫られ、「面倒くさく、鬱々としてしまう年頃」だという。

 この作品を読みながら、そういえばそんな時期があったなあ、と遠い昔のことのように思いつつ、自分の感性が摩耗しているようで、少しヒンヤリした。