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自己犠牲と友情。これは鉄板です

北天の馬たち 貫井 徳郎 著

北天の馬たちの写真角川書店 1500円(税別)

 自らを犠牲にしてまでも誰かを守ろうとする男たち。そこに友情がからめば、これはもう鉄板でしょう。女性にはどうかわからないけど、男にはグッとくる話だと思う。

 勤めを辞めて、母が守り続けてきた横浜・馬車道近くにある美味しいコーヒーが評判の喫茶店「ペガサス」を継いだ毅志。納得して選んだ道だったはずなのに、何かやり残したような、これで良かったのかと、迷いを感じていた矢先、毅志の人生に二人の男が入り込んできた。

 喫茶店の2階の貸事務所に移ってきた山南と皆藤という探偵。飄々としているが、その仕事は確かで、地元警察のベテラン刑事も一目置いている。2階の事務所に行くには喫茶店内の階段を上らなければならず、二人とはいつも顔を合わせる。そんなに歳が違わないのに、自分の知らない様々な経験を積んできた山南と皆藤に、いつしか憧れを抱くようになった毅志は、喫茶店の仕事の合間に二人の仕事を手伝うようになる。

 一章と二章で二人がした仕事。それは探偵の仕事としては少し奇妙で、毅志は二人の行動に違和感を感じる。それぞれが1話完結の話なのかと思いきや、三章でこの話がグッとつながっていく。

 山南と皆藤には、淑子という共通の友人がいる。この3人には毅志も入り込めない、友情以上の絆のようなものを感じる。淑子には義理の娘・芽衣香がおり、山南と皆藤は自分の子どものように可愛がっている。天真爛漫な芽衣香は小さなアイドルのようで、毅志の母も孫のように芽衣香が喫茶店に遊びに来るのを心待ちにしている。

 山南と皆藤、淑子をつなぐ強い絆とは何なのか。そして、二人が片付けた奇妙な2つの仕事の意味とは。

 派手な展開はないが、アルバイトの女の子を含め、喫茶店「ペガサス」を囲む人たちの温かい雰囲気が良く、美味しいコーヒーとサンドイッチが欲しくなる。

 謎めいた山南と皆藤の過去など、想像させる部分が多く、読書したなぁ、と感じさせる作品だった。