［794号］はじまりのうた　BEGIN AGAIN

はじまりのうた　BEGIN AGAIN

ニューヨークのライブハウスで友人から一曲歌ってくれと促されて、心ならずもマイクの前に立ったグレタ。最初は盛り上がっていた客も彼女の暗い曲調に雑談を始める。その中で、目を輝かせて一人拍手を送る中年のやさぐれた男ダン。

映像は、このやさぐれ中年男の話に切り替わり、彼がこのライブハウスに行きつくまでが描かれる。

私は最初、彼女の歌声を聴いた時、けっこういい曲なのに、なぜみんな聴いてくれないのだろうと思った。そして、彼のここまでのエピソードを見て、改めてこの歌声が流れると、涙がこぼれた。たった２度目なのに。彼の人生とこの曲が実に符合していた。

彼は自称ある音楽レーベルを立ち上げた名プロデューサーなのだが、その会社をクビになってしまった。純粋に音楽が好きというだけではやっていけない世界。飲んだくれて、街をさまよった末に、ライブハウスで彼女の歌声に出会った。

彼女はミュージシャンの恋人とイギリスからやってきた。彼はどうやら映画の挿入曲が注目されたようで、ニューヨークでのレコーディングが決まっている。彼の楽曲のいくつかは彼女との共同制作のようなのだが、注目されるのは彼ばかりで、彼女は蚊帳の外。

そして、告げられた彼からの別れ。

ライブハウスで彼女の歌が暗かったのは、そんな出来事の後だったからだ。

その歌声に可能性を見出したダンはグレタにデビューを持ちかける。

でも、レコーディングする資金などない。そこで、現代の機器を駆使して、ニューヨークの街角のいたるところで録音してアルバムを作り上げることにする。街の騒音も音楽の一部。

ミュージシャンもダンの人間関係からボランティアで参加してくれる仲間が集まる。

この録音シーンが実に楽しそう。

そして曲がいい。

だんだんと音楽産業の中に染まりゆく恋人と、グレタの世界はどこかが違う。

人にとって音楽ってなんだろう。音楽って楽しいなぁ、と実感する作品だ。
監督＝ジョン・カーニー／出演＝キーラ・ナイトレイ、マーク・ラファロ、ヘイリー・スタインフェルド、アダム・レヴィーン、ジェームズ・コーデン、ヤシーン・ベイ、シーロー・グリーン、キャサリン・キーナー／２０１３年、アメリカ

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「はじまりのうたＢＥＧＩＮ　ＡＧＡＩＮ」ＤＶＤ税別３８００円、発売・販売元＝ポニーキャニオン