舟を編む:DVDジャケットの写真

日曜日に観たいこの一本

舟を編む

 三浦しをん原作の同名小説の映画化。「本よみ松よみ堂」でも紹介したことがある作品だ。ストーリーは原作にほぼ忠実に描かれている。

 出版社・玄武書房の辞書編集部では、新しい編集者を探していた。というのも長年辞書編集部を支えてきた荒木が定年で会社を辞める日が近づいていたからだ。編集部にはほかに社員の西岡と契約社員の佐々木さんがいるが、編集主幹の松本先生は、調子のいい西岡をあまり信用していない。そこに白羽の矢が立ったのが、営業部の馬締光也(まじめ・みつや)だった。大学院で言語学を研究していたという馬締は、本の虫。下宿は大家のタケばあさんの厚意で、使っていない部屋を書庫にしているほど本で溢れている。まさにうってつけの人材だ。しかし、営業部では変わり者として持て余されていた。本当にこの会社の人事部は見る目がない。

 辞書編集部では新しい辞書「大渡海(だいとかい)」を創刊することになった。「広辞舟を編む苑」や「大辞林」と同規模の辞書だ。見出し語は24万語。「大辞林」は完成までに29年がかかったという。「大渡海」も完成まで何年かかるか分からない。

 気の遠くなるような作業だが、馬締は水を得た魚のように生き生きとしてくる。そして、運命の女性、タケばあさんの孫の林香具矢(はやし・かぐや)が下宿に引っ越してくるのだった。

 辞書作りという長くて険しい道のりが描かれるのも原作の通りである。不採算部門と見なされ、「大渡海」の発行に暗雲が垂れこめ、編集継続のために馬締たちは作りたくない本の出版もやらされるが、ここは作品の尺のせいか、原作ほどは詳しく描かれない。

 十何年もかけて作られた辞書は、改訂を重ねて、その後何十年、百年と残っていく。一人の編集者が新しい辞書を創刊するという仕事は、一生に一度きりの仕事かもしれない。私も雑誌や新聞を作りながら生きてきたが、同じ紙媒体でも全く違う仕事のように感じる。こういう丁寧な、後の世に残る仕事というのは、編集者冥利に尽きる仕事のように感じた。

 監督=石井裕也/出演=松田龍平、宮﨑あおい、オダギリジョー、黒木華、渡辺美佐子、池脇千鶴、鶴見辰吾、伊佐山ひろこ、小林薫、加藤剛/2013年、日本

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 『舟を編む』、ブルーレイ4700円(税別)、好評発売中、発売元=アスミック・エース、販売元=松竹、c2013「舟を編む」製作委員会