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年間17万頭の殺処分。すぐ隣にある現実を見つめて

犬を殺すのは誰か ペット流通の闇 太田 匡彦 著

犬を殺すのは誰かの写真

 知人から借りた2冊の本を読んだ。

 平成23年度の犬猫の殺処分数は環境省の統計によると全国で17万4742頭。16年度は39万4799頭、19年度は29万9316頭だった。毎年かなりのペースで数を減らしてきている。20年以上前は100万頭を超えていたという話も聞く。

 とはいえ、23年度も17万以上の尊い命が人によって奪われた。数の大きさも手伝って、すぐ隣にある、日常の現実なのにピンとこない。いや、私自身考えないようにしているのかもしれない。

 「犬を殺すのは誰か ペット流通の闇」は、犬がどのような経路をたどってペットショップの店頭に並び、売れ残った犬たちがどうなっていくのかという、ペット流通の裏側を追ったもの。『AERA』の記者が書いている。

 犬は定期的に開かれるオークションで競りにかけられ、ペットショップのバイヤーが値をつける。驚いたことに、買う方は犬がどんな飼育環境で育ったかについて知ることがほとんどできないという。日本人は幼い犬を好む。しかし、あまり幼いうちに親や兄弟から引き離すと社会性が育たず、無駄吠えや噛み癖など問題行動を起こしやすいという。そのボーダーとして議論されたのが、生後8週齢。問題行動を起こす犬は、保健所(愛護センター)に持ち込まれ、殺処分されることが多い。

 また、深夜の盛り場にあるペットショップや、デパートの屋上などのイベントで行われる「移動販売」など、ペットの衝動買いを促す商法も問題に。

 昨年8月に改正された「動物の愛護及び管理に関する法律」(動愛法)で、かなりの部分が規制されるようになった(同書は2010年9月発行)。

 後半では犬の殺処分制度がないドイツや、「殺処分ゼロ」を目標に苦闘している熊本市などを取材している。

 朝日新聞出版 1200円(税別)

 

殺処分ゼロ 先駆者・熊本市動物愛護センターの軌跡 藤崎 童士 著

殺処分ゼロの写真

 「殺処分ゼロ 先駆者・熊本市動物愛護センターの軌跡」では、その熊本市の取り組みを取材している。

 熊本市は取材当時、熊本県の中核市として県とは別に動物愛護行政を行っていた(現在は政令市に昇格)。「殺処分ゼロ」に最も近づいたのは2009年度で、犬の殺処分は1頭、猫は6頭だった。驚くべきはその生存率で、2 0 1 0 年度、犬は92・3%、猫は74・5%が元の飼い主に引き取られるか、新しい飼い主を見つけることができた。殺処分率は3%。愛護センターに収容された犬猫は、まずそのほとんどが殺されるという他自治体とは真逆のことが起きている。

 同センターでは簡単に犬猫を引き取らない。犬猫を持ち込んだ飼い主から、なぜ飼えなくなったのかをじっくり聞き、1時間以上もかけて説得することもある。市には苦情が寄せられることもあるが、あえて「嫌われる行政になる」ことを選んだ。

 引き取った犬猫については、粘り強く里親を探す。施設内にいる犬猫の環境を良くして、もらい手がつきやすくする。1年半も施設内にいた犬もいるという。

 動愛法に定められた動物愛護推進協議会をいち早く発足させ、獣医師会、愛護団体、業者、市民の協力を得る努力もしてきた。野良猫に避妊去勢手術をする地域猫運動の推進や、飼い犬猫すべてに迷子札をつける運動も市ぐるみで行っている。地元国会議員の国会での質問や、5年ごとに改正される動愛法愛法)で、かなりの部分が規制されるようになった(同書は2010年9月発行)。

 後半では犬の殺処分制度がないドイツや、「殺処分ゼロ」を目標に苦闘している熊本市などを取材している。も背中を押した。

 同センターの改革が始まったのは、2000年、淵邉利夫所長が就任してからだった。熊本市を含め、多くの自治体の職員は、これも仕事、しょうがないと自分を納得させ、殺処分を行っている。しかし、ある日淵邉所長は、犬舎の檻の片隅で小刻みに体を震わせている3頭の子犬のシーズー(明らかに兄弟と思われ、重度の白内障を患っていた)を見た時、予期せぬ感情が湧いた。「なんでだ? なぜ、こんなかわいそうな子犬まで俺たちは処分せんといかんのだろうか?」。愛護センターには少なからず獣医師がいる。淵邉所長もその一人。それまで勤務していた食肉センターでは、だれかがやらなければならないこと、として動物の死を見てきた。しかし、愛護センターでのペットの死には答えが見いだせなかった。それは、人として自然な感情だと思う。

 同書は、熊本市はスゴイけど、ほかの自治体はダメだということを書こうとしているのではない。多くの職員に話を聞くことで、仕事として殺処分する側の気持ちもつまびらかにしている。

 多くの施設では殺処分にガス室を使う。「安楽死」とされているが、高濃度二酸化炭素による窒息死で、苦しくないはずはない。また、ガス室に入れられた時の犬猫の恐怖はいかほどだろうか。ガス室による処分機を使えば、一度に大量に殺せる上、職員も動物の死を直接見なくて済むという効果があるという。

 しかし、熊本市では麻酔薬の注射を使う。職員の腕の中で、30分から40分をかけて動物はゆっくりと「安楽死」に向かう。やむなく殺さざるをえなかった動物の死を目の当たりにすることで、次へのモチベーションが湧いてくる。

 私も以前に富里にある千葉県の愛護センターを取材したことがある。犬舎に収用されている犬たちと目があった。飼い主が迎えに来たと思ったのか、尻尾を振りながら寄ってくる犬も。私にはガス室での殺処分を取材する勇気はなかった。こういう取材は、取材するほうの心の負担も大きい。二人の著者に敬意を表したい。

 三五館 1500円(税別)