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読むと呑んで食べたくなる居酒屋人情話

居酒屋ぼったくり 秋川 滝美 著

居酒屋ぼったくりの写真アルファポリス 各1200円(税別)

 「誰でも買えるような酒や、どこの家庭でも出てくるような料理で金を取るうちの店は、もうそれだけでぼったくりだ」という先代の父の口癖から常連たちが命名した居酒屋「ぼったくり」。東京の下町にある小さな居酒屋は早世した両親に代わり、美音(みね)と馨の姉妹が守っている。

 毎日でも顔を出したくなるような、家庭のように温かくて居心地のいい居酒屋。下町らしく、常連客たちも皆人情味に溢れていて、店主や客がかかえる様々な悩みや問題に、時に的確に、そしてさりげなく応えてくれる。

 美音も客たちの体調や心模様に心を砕き、心まで温かくなるような酒や料理を提供する。

 今までに3巻までが出ている。だいたい1巻に6~7話が収録されており、それぞれが読み切りの話になっている。仕事や家庭の悩み、はてや捨てられていた猫のことなど、日常のちょっとした出来事から話を起こし、実にしみじみと解決していく。そして、毎回、この話題に合った酒と料理が紹介される。小説というか、(いい意味で)漫画を読んでいるような軽みと気楽さがある。

 私もいい年をした呑兵衛である。居酒屋での思い出は事欠かない。そして、「ぼったくり」のような居酒屋はまずないだろうな、と思う。

 美音は実に謙虚で仕事に対して真摯だ。こんな居酒屋があったら、100点万点だよ、と私は思うが、本人は自分はまだまだ、本当にこれでいいんだろうか、と悩んでいる。

 やはり居酒屋は店主と客との距離が大切だと思う。常連が多いのはいいことだが、常連が大きな顔をして、新しい客が入りにくいという店もある。でも「ぼったくり」の常連達は、実にわきまえていて、若い店主を助け、まだ飲み方を知らない若い客を導いてくれたりする。

 この作品を読んでいて困ることは、休肝日を決めていても、きょうも酒を飲みたくなってしまうこと。レシピと言えるほどではないが、料理の作り方も作品の中に出てくるので、2品ほど作ってみた。我ながらよく出来たと思う。