松戸市の「地域猫活動」

排除から共生へ

「飼い主のいない猫の不妊去勢手術費補助金」制度を拡充

松戸市は平成26年度から「飼い主のいない猫の不妊去勢手術費補助金」制度をスタートさせ、今年度で3年目に入った。動物愛護の観点から、地域に住み慣れた野良猫に不妊去勢手術をし、これ以上増やさないようにし、その猫が一代限りの命を全うするまで、適正に管理していく「地域猫活動」への理解と協力を呼びかけている。野良猫を排除するのではなく、地域猫として共生する地域社会を目指している。

耳の先端をV字カットした地域猫の写真▲耳の先端をV字カットした地域猫

飼い主のいない猫の不妊去勢手術費補助金

平成26年度は性別に関わらず1件5000円の助成で、初年度は75万円の予算で150件の申請を受理し(6月から翌3月までの10か月間)、27年度は100万円の予算で200件を交付した。今年度からは、手術費のうちオスは5000円、メスは7000円、妊娠中のメスは9000円を助成する。予算も122万円と増額された。4月から今月21日までに、既に71件の申請があり、市環境保全課では、年度内には予算額いっぱいまで申請があるだろうと予測している。また、1人につき手術10件まで申請できる。

千葉県でも同様の取り組みをしているが、県の場合は登録された3人以上の団体が対象で、不妊去勢手術は動物愛護センターで行う。県内では政令指定都市の千葉市、中核市の船橋市と柏市には自前の保健所があり、それぞれに助成制度がある。

松戸市の助成制度は個人が対象で、市内の獣医師会所属の指定動物病院で手術を行い、術後に市に申請書を提出し、指定口座に補助金が振込まれるという仕組み。

松戸市に寄せられる猫に関する相談は25年度は32件、26年度は29件、27年度は59件だった。相談内容の内訳は、27年度の場合、えさやりが29件と最も多く、糞尿が14件、放し飼いが4件、その他が12件だった。27年度が例年に比べ多くなった理由は分からないが、26年度から始まった助成制度も関係しているかもしれない、と市では見ている。

飼い猫でも屋外飼育の場合、不妊去勢手術をしていなければ繁殖の可能性があるので、全てのトラブルが野良猫によるものだとは言えない。市では飼い猫の完全室内飼いを強く求めている。

野良猫が増え続けるサイクルとして、まず、無責任な飼い主が猫を捨て、かわいそうだと思った人が野良猫となった元飼い猫にえさを与える。猫は年に2~3回出産し、一度の出産で4~8匹の子猫が生まれるので、どんどん増える。ここに来れば、えさをもらえると知った他の野良猫たちも集まってくる。猫が集まっているところに、さらに無責任な人が猫を捨てる。

猫が嫌いな人はストレスをため、猫がいなくなればいいのにと思う。猫が好きな人は、周囲の冷たい目を気にしながらえさやりを続けることになる。お互い感情的になり、住人同士のトラブルに発展することもある。市には「猫を捕獲してくれ」という苦情が寄せられることもあるというが、これは「動物の愛護及び管理に関する法律」(動物愛護法)の観点から見て出来ない相談だ。たまに、猫の駆除のために毒入り団子をまいた、という話を耳にするが、これは明らかな動物愛護法違反で、2年以下の懲役か200万円以下の罰金が科される。猫は野良猫であっても愛護動物として法律で守られている。

 

地域猫活動をする人に貸与されるバッジの写真▲地域猫活動をする人に貸与されるバッジ

地域猫活動を推進

不幸な猫を増やさないためには、繁殖制限が必要になってくる。そこで出てきたのが「地域猫」という考え方だ。

地域猫とは「地域に住み慣れた野良猫に不妊去勢手術をし、これ以上増やさないようにし、その猫が一代限りの命を全うするまで、適正に管理していく活動」のこと。野良猫を捕獲して不妊去勢手術を行った後で、再び元の地域に放す。不妊去勢手術をした猫は耳の先端をV字にカット(オスは右耳、メスは左耳)。V字が野良猫ではないことを見た目で判断できる目印となる。その後もえさやりと、トイレを複数用意するなどして管理を続ける。町会や自治会が地域の問題として一丸となって取り組むことができれば理想的だが、個人や動物愛護団体が管理を続ける例も多い。

手術を受けさせるには、野良猫を捕獲しなくてはならないが、これが簡単ではない。「捕獲器」を使うか、えさやりを続けて、慣れさせて、慣れてきた頃に捕獲する。しかし、えさやりをしていると地域の住民から注意を受けることもある。そこで、市では「松戸市地域猫活動バッジ」を地域猫活動を理解し、松戸市のルールに沿って活動する人に貸与している。活動中は、このバッジをつけ、尋ねられた時には、地域猫活動とはどういうものなのか、関心がない人にも優しくわかりやすく伝え、賛同してくれる人を増やすよう努めてもらう。バッジ貸与の目的は「地域猫活動の支援と理解普及」で、松戸市が貸与者にお墨付きを与えたということではないので、注意が必要だ。たとえ、高圧的に注意を受けたとしても、冷静に説明する我慢強さが必要となるだろう。

バッジの貸与の申請は市に行う。活動場所(えさやりやトイレの設置場所)が自己所有地でない場合は、土地の所有者(管理者)に承諾をもらい「松戸市地域猫活動承諾報告書」を提出する必要がある。活動場所が公園となる場合は、地域の町会・自治会の承諾をもらい「報告書」を提出する。「報告書」を提出しても、公園での地域猫活動は原則禁止なので、環境保全課がいったん受領し、公園緑地課へ「公園内使用許可」を申請する。

市の地域猫活動への問い合わせは、電話 366・7336松戸市環境保全課。

 

8万頭の猫が殺処分に

環境省の統計によると26年度に全国で殺処分された犬猫は10万1338頭。うち犬が2万1593頭。猫が7万9745頭。

昭和49年度には全国で125万頭の犬猫が保健所に引き取られた。うち犬が118万7千頭、猫が6万3千頭で、その97・7%が殺処分された。26年度に引き取られた犬猫は15万1千頭で、殺処分率は67・1%。5万200頭は、返還・譲渡された。昭和49年度よりも平成26年度のほうが猫の殺処分数が増えているが、これは猫の飼育数が大幅に増えたためだと考えられる。特に平成に入ってから、殺処分数は毎年右肩下がりで、特に犬は狂犬病予防法で管理されていることもあって、大きく数を減らした。犬と猫の殺処分数が逆転するのは平成12年度からである。

殺処分数の減少は、動物愛護団体の長く地道な活動と、近年は行政の取り組みも大きい。しかし、減ったとはいえ、まだ10万を超える命が人間の都合で奪われているのである。猫たちは、人間に捨てられたことで、もう十分に辛い目に遭っている。さらに、殺処分という「罰」を受ける必要がどこにあるのか。本当に「罰」を受けなければならないのは、安易に飼い、命を捨てた人間なのだ。