公立夜間中学開設に追い風

文科省、議員連盟が積極姿勢

松戸市に公立夜間中学校の開設を求める「松戸市に夜間中学校をつくる市民の会」が運営する松戸自主夜間中学は、今年33年目を迎えた。長年の交渉にもかかわらず、公立夜間中学の設立は実現できていない。ところが、ここ最近、国会の議員連盟や、文部科学省が夜間中学の設立に積極的な動きを見せ、同会の活動に追い風が吹いている。

ある日の松戸自主夜間中学の写真▲ある日の松戸自主夜間中学。この日は親睦を深めるためにレクリエーションが行われた

松戸自主夜間中学の33年

そもそも夜間中学(中学校夜間学級)は、第二次大戦後の混乱期に経済的理由で義務教育を修了できなかった人たちを救済するために始められたものだという。

松戸市に「松戸市に夜間中学校をつくる市民の会」(以下「市民の会」)が設立されたのは1983年4月。市に夜間中学の開設を働きかける一方で、現実に教育を求めている人たちに学びの場を提供する目的で同年8月には「松戸自主夜間中学校」が開設された。

毎週火曜日と金曜日の午後6時から9時まで、松戸市勤労会館で行われている(3年前からは金曜日午後3時から6時まで「中間部」も開設している)。先生は市民のボランティアだ。

授業は机を並べて行う「一斉授業」と個人指導を行う「個別授業」の2本立て。しかし、開設当初から昨年まで代表を務めていた藤田恭平さん(87)は、最初は「個別授業」だけでいいと思っていた、という。ところが、しばらくすると、ある年配の生徒から黒板の前に先生が立ってみんなで机を並べて授業を受けたい、という要望が出た。それが学校に行けなかった年配者の夢だった。藤田さんは自分の思いが至らなかったことを恥じたという。

その後、戦争のために学校に行けなかったという世代は徐々に減っていったが、中国残留孤児の姉弟や、いじめによる不登校や引きこもりで義務教育を受けられなかった人たちや、障がい者、在日外国人の子どもたちなど、その時代の教育問題を映す鏡のような人たちが通うようになった。だから、積極的に授業に出る人もいれば、居場所や仲間を求めて来る人もいる。

12月に行われる「北斗祭」(文化祭)や3月にそれぞれの卒業や成人、退職などを祝う「出発(たびだち)の会」などの「学校行事」、学級新聞のような「北斗通信」、会報となる「松戸夜間中学ニュース」の発行なども行っている。

松戸市に公立夜間中学ができないまま、市民の会の活動は33年目に入っている。開講回数は2700回を超えた。スタッフの高齢化や資金不足などの課題も抱えている。活動の安定と強化のため、先月、NPO法人(特定非営利活動法人)へ移行した。

7年前には柏市にも自主夜間中学ができた。また、我孫子市でも自主夜間中学が開校するなど、常磐線沿線にも活動が広がっている。

 

形式卒業者も受け入れへ

ここ数年、国の方から夜間中学開設へ追い風となる動きが出てきた。

昨年4月には衆参両院の超党派の議員による「夜間中学等義務教育拡充議員連盟」が発足。「義務教育の段階に相当する普通教育の多様な機会の確保に関する法律案」(仮題)が今国会にも提出されようとしている。

文部科学省の方でも、この議員立法に先んじるような動きが出ている。

不登校などで実際に学校に来ておらず、出席日数が足りなくても「学校側の配慮」という形で卒業証書を出すことを「形式卒業」という。しかし、この人たちが再び中学で学び直そうと夜間中学の門を叩いても、入学は許されない。書類上は、義務教育を終えたことになっているからだ。全国夜間中学研究会など夜間中学開設運動を支える人たちの間では、いつも問題になっていた。

ところが先月、文科省が各都道府県教育委員会教育長に出した通知で、形式卒業者(文科省は「入学希望既卒者」と呼んでいる)を夜間中学に積極的に受け入れるように促している。その通知によると、昨年文科省が実施した「中学校夜間学級等に関する実態調査」において、「全ての夜間中学において、実際に入学希望既卒者の入学を断っているという事実や、いわゆる自主夜間中学や識字講座といった場において不登校等により義務教育を十分に受けられなかった義務教育修了者が多く学んでいるといった実態が明らかになった」という。

また、別の2つの調査の結果によれば「親による虐待や無国籍等の複雑な家庭の事情等により、学齢であるにもかかわらず居所不明となったり、未就学期間が生じたりしている者が存在することが明らかになっている」という。

さらに別の調査結果によると「学校に十分に通わないまま卒業する生徒が今後も生じてくるものと考えられる」という。

下村博文文科大臣も、昨年5月の衆議院文部科学委員会で「各都道府県に1校以上の夜間中学設置が必要」と答弁している。

昨年から「市民の会」の代表を勤めている榎本博次さん(66)は、「全国の長期欠席児童生徒は年間12万人か、もっといると思います。累積で100万人、200万人単位でいるでしょう。ところが、全国には夜間中学が31校しかない(東京8、神奈川2、千葉1〈市川市〉、埼玉0)。文科省の通知に従って積極的に学び直したい人を受け入れようとしても現状では無理でしょう」と話す。

松戸市の伊藤純一教育長は、「文科省や立法の動きを注視しており、県教委とも協議を行った。県の教育長は夜間中学の仕事にも関わったことがある方なので、県で夜間中学設置の方針が決まったら1番目に松戸にお願いしたいと話した」という。

それは、「市民の会」の長年の活動を評価してのことだというが、記者の取材では「市民の会」とのコミュニケーションが十分にとれているとは思えなかった。

松戸には民間でノウハウを蓄えてきた自主夜中の存在があるのだから、うまく連携してより良い公立夜間中学をつくってもらいたい。

松戸自主夜間中学への問い合わせは、電話 090・3103・1006榎本さんまで。