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いかりや長介が書き残したかったこと

だめだこりゃ いかりや長介 著

だめだこりゃの写真新潮社 1400円(税別)

積ん読というのがあるが、この本はそんな一冊。2001年4月20日発行とあるから、その頃に書店で見かけて、買ったのだと思う。当時いかりやさんは役者として注目されていた。テレビドラマの「踊る大捜査線」が劇場映画としても大ヒット。いかりやさんは、若い刑事を指導する和久指導員を演じていた。演技が上手い下手というより、にじみ出る人生の先輩としての雰囲気のようなものがファンを魅了していた。弊社には今でも劇場版「踊る大捜査線」のポスターが2枚張ってある。私が劇場で買い求めたものだ。一枚には青島刑事(織田裕二)が、もう一枚には和久指導員(いかりやさん)と恩田刑事(深津絵里)が並んで立っている。

先日、加藤茶がラジオにゲスト出演していて、「全員集合」当時の思い出を話していた。そして、本棚にささったままになっていたこの本のことを思い出した。

この本は、2000年2月9日に亡くなった荒井注の葬儀のことから書き始められている。そして、「あとがき」は、荒井さんの一周忌の日に書かれている。

何度も出版の誘いを断ってきたという。心境が変わった理由を、こんなふうに書いている。

「あいつらは何も書き残さなかった。(中略)あいつらと私は確実に人生をともにした時期がある。時田(ジミー時田 ※記者注)と荒井。二つの青春のようなものが私の記憶にはある。このまま、私がぽっくりあとに続けば、(中略)あいつらの頑張りが無駄になっちまうような気がして、何とも申し訳ない気がしてきた。あいつらのこと、あいつらと生きた時間のこと、それらは私が書き残しておかないといけないのかもしれない……」

いかりやさんは、本当に3年後の2004年3月20日に逝ってしまった。

この本には東京都墨田区に生まれた幼少期のことや、父親のこと、戦争や疎開のこと、バンドの結成と、加藤茶、仲本工事、高木ブー、志村けんら、ドリフターズのメンバーのこと、「8時だョ!全員集合」や「ドリフの大爆笑」の製作の裏話、役者のことなどがつづられている。読む人や年代によっても感じることが違うかも知れない。

私のような地方で育った人間には「全員集合」がTBSで放送されたことが幸運だった。民法のNHKと呼ばれるTBSは古くから全国に系列局があった。「仮面ライダー」(NET=現・テレビ朝日)などの人気番組でも、私の田舎では何週間も遅れて放送されていた。チャンネル数の多い都会から遊びに来たいとこが「この話はね…」と余計な話をするのを苦い思いで聞いていた記憶がある。その点、「全員集合」や「水戸黄門」は田舎でも話題に遅れを取ることがない。これは全国の田舎育ちの子どもには共通の記憶ではないだろうか。特に、「全員集合」は、土曜の夜8時からの生放送だからまさにリアルタイム。大きな会場を借りて大きな舞台装置で16年間、803回放送をしたのだから、本当にすごい。

メンバーの再編があって、おなじみの顔ぶれになったのが昭和39年(1964)秋だという。私が生まれたのが翌40年1月。まさにドリフとともに育った。「全員集合」の最終回は60年(1985)9月28日だというが、記憶にない。それもそのはずで、私は予備校の寮で猛勉強をしていた。テレビ自体見ていなかったのである。

荒井注が辞めてしまったことも覚えているし、加藤茶の「ちょっとだけヨ」を教室でやって先生に苦笑されたことも覚えている。志村の「東村山音頭」は覚えているが、「カラスの勝手でしょ」とか、加藤とやった「ひげダンス」になると見たり見なかったり。このあたりで「全員集合」から離れたようだ。視聴者は私のように移り気だ。

音楽は四流。笑いは素人。役者としては駆け出しだと述懐するいかりやさんの苦闘が垣間見える一冊。写真は当時買ったハードカバーだが、現在は新潮文庫も出ている。